2014-02-02 あなたがまだ私の世界にいなかったころ あの日、私とあなたは春日の曼荼羅を見ていた。丸い月と、鹿と、春日山。美術館に併設された庭園の枯葉の中を、さくさくと音を立てながら歩き、柿の木の下で立ち止まる。「柿、子どもの頃から食えないんだ。夕陽みたいな色は好きなのに」と、あなたは私の肩を引き寄せた。もう忘れてしまっただろうか。あなたの曼荼羅と私の曼荼羅が、少しだけ重なった日。