綾ちゃん、お元気ですか?あの時、綾ちゃんの凜とした決意に、あたし励まされたんだよ。迦陵頻伽を、あたしは胸に刻んだんだよ。だからね、あたし旅に出たんだ。もちろん一人で。心配なんてしないでね(でも、あたしは綾ちゃんのこと、いつも心配してるけど…
「もう、傷つきたくないの」そう言いながら彼女の瞳は少しだけ迷っているようだった。傷つくのは辛い。でも本当に辛いのは、傷つくに至る事象ではなく、何かを諦めることによって決定づけられる自身の未来の姿なのかも知れない。本当は怖いのだ、すごく。私…
無言というコトバがあるのだ
だから世界はだからあなたもほろびない
あの日、私とあなたは春日の曼荼羅を見ていた。丸い月と、鹿と、春日山。美術館に併設された庭園の枯葉の中を、さくさくと音を立てながら歩き、柿の木の下で立ち止まる。「柿、子どもの頃から食えないんだ。夕陽みたいな色は好きなのに」と、あなたは私の肩…
水際をゆっくりと歩いていると思うのだ。あなたもまたそうして歩きながら時折ふと思い出したように左岸を眺める。私が右岸を眺めるようにして。川の美しい街だった。流れに沿って歩く我々はどこに向かっているのだろう。少しだけずれた歩調を気にするのはや…
空白に向かい言葉を奏でる光あるところで、それは透明になる光なきところで、それは群青を帯びるいかようにでもなろういかようにでもあろうそれが空白を埋めつくす頃きっと何かが呼吸をはじめるのだろう
手紙を赤いポストに投函したことで、私はまた苦悩することになる。それを分かっていて、何故それを出さずにいられなかったのだろう。春分の日からちょうど半年間、膨大な思想と活字が水槽の中を漂い音楽は水面下で乱反射した。けれども私は知っている。太陽…
「おやすみ。」と鼠は言った。 「おやすみ。」とジェイが言った。「ねえ、誰かが言ったよ。ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲めってね。」 (村上春樹『1973年のピンボール』)3月21日に私が撮ったスナップ写真の中に、間違ったものがいくつか紛れ込んでい…
旅のしたくをしていた。一人旅。自分が精神的にツーリストなのかトラヴェラーなのか考えようと思う。西へ行く。(まるで三蔵法師ではないか)持参する本は、中陰の花 (玄侑宗久)毎日の言葉 (柳田國男)恋愛空間 (高樹のぶ子)純愛小説 (篠田節子)素敵…
この二年間、随分と本を読んだ気がする。その分、自分の言葉は森の奥の静かな泉に沈んでいた。時折それを掬おうと試みるのであるが、指の隙間からするするとこぼれ落ち、また水の中へと消えていった。私にはインプットの時期とアウトプットの時期とがある。…
いったい何に別れを告げたのか正直分らないでいる。とにかく夏は終わったのだと思い、私は待合室から出たのだけれど、さてこれから何処へ往けばいいのか。何処でもいいじゃないかと去年の私なら言うだろう。未来のことなんてこれっぽっちも分らないのだから…